テノヒラノネツ
「そう、すごいな……やっぱり」
もう、自分とは世界の違う人なんだな……。
改めて感じた。
「ほら、平目」
「……」
「白身魚好きだろ?」
「やあだ、よく覚えてるねえ」
「違ったか?」
「ううん。ありがとう」
こういう時、こういう瞬間――――彼との距離が昔みたいに近づいた気がして、切なくなる。
「どうした?」
「……山葵、効いた……」
千華はそう、ごまかした。
彼が近くにいて、嬉しくて、遠い寂しい気持ちが、薄れていくようで、ただ嬉しくて涙ぐむ。
それを山葵のせいにする。
「コウさん、山葵効いた」
「え? マジ? じゃあ 進藤は山葵抜きにしてやるよ」
「えー子供みたいで。やだな」
「味覚で大人も子供あるか、川島、千華の山葵抜きにしてくれ」
「な、勝手に決めないでよ。辛い方がいいよ」
「泣くほどだろうが?」
「お酒には兆度いい辛さなの!」
「古賀はどうだ? プロになってグルメになったんじゃねーの? あ、でも自炊してるんだっけ?」
「ああ」
「え、古賀君、自分で作るの?」
「身体が資本だからな。千華はちゃんと食べてるのか?」
「あ――――……」
「進藤は食べるより飲むだよなあ?」
「ちょ、ちょっとコウさん」
「美夏ちゃんが愚痴ってたよ。『千華のマンションの冷蔵庫にはビールとワインしか入ってない』って」
気まずそうに、彼を見ると、彼は溜息をついている。
「不摂生だな」
千華はムっとして彼を見上げる。
「でも誰にも迷惑かけてないもん」
「心配はかけてるだろ」
「……」
「俺も心配だ」
その言葉を聞いて、嬉しくて、恥ずかしくて、照れてしまい、カウンター越しの川島に小声で話しかける。
「ねえ、コウさん。古賀君、酔ってる?」
「どうかな? でも古賀は酒、強いよ」
「……」
川島は浅田に頼まれて今度はシマアジを握り始めた。
もう、自分とは世界の違う人なんだな……。
改めて感じた。
「ほら、平目」
「……」
「白身魚好きだろ?」
「やあだ、よく覚えてるねえ」
「違ったか?」
「ううん。ありがとう」
こういう時、こういう瞬間――――彼との距離が昔みたいに近づいた気がして、切なくなる。
「どうした?」
「……山葵、効いた……」
千華はそう、ごまかした。
彼が近くにいて、嬉しくて、遠い寂しい気持ちが、薄れていくようで、ただ嬉しくて涙ぐむ。
それを山葵のせいにする。
「コウさん、山葵効いた」
「え? マジ? じゃあ 進藤は山葵抜きにしてやるよ」
「えー子供みたいで。やだな」
「味覚で大人も子供あるか、川島、千華の山葵抜きにしてくれ」
「な、勝手に決めないでよ。辛い方がいいよ」
「泣くほどだろうが?」
「お酒には兆度いい辛さなの!」
「古賀はどうだ? プロになってグルメになったんじゃねーの? あ、でも自炊してるんだっけ?」
「ああ」
「え、古賀君、自分で作るの?」
「身体が資本だからな。千華はちゃんと食べてるのか?」
「あ――――……」
「進藤は食べるより飲むだよなあ?」
「ちょ、ちょっとコウさん」
「美夏ちゃんが愚痴ってたよ。『千華のマンションの冷蔵庫にはビールとワインしか入ってない』って」
気まずそうに、彼を見ると、彼は溜息をついている。
「不摂生だな」
千華はムっとして彼を見上げる。
「でも誰にも迷惑かけてないもん」
「心配はかけてるだろ」
「……」
「俺も心配だ」
その言葉を聞いて、嬉しくて、恥ずかしくて、照れてしまい、カウンター越しの川島に小声で話しかける。
「ねえ、コウさん。古賀君、酔ってる?」
「どうかな? でも古賀は酒、強いよ」
「……」
川島は浅田に頼まれて今度はシマアジを握り始めた。