テノヒラノネツ
千華は結局、二次会まで参加して、自分のマンションに戻ることにした。
明日も仕事だから、とりあえず帰宅しようと思った。
出かける前、あれほどぐずぐずしていた自分が馬鹿みたいだ。
久しぶりの友達はみんな気のいい人たちで、千華は彼にこだわることなく、彼等とも会話を楽しみ、その余韻に浸りながら帰ることにしたのだ。
もう少し、彼と話してみても良かったかもしれないが、明日は仕事だ。
彼は遠い人。
千華自身が作り上げてきた距離が一番いいのだ。
否、もしかしたら、もう少し遠くなっても可笑しくない……彼は別世界の人なのだから。


(寒いから、手をつないでおうちに帰ろう?)


小さな頃の思い出。

千華が子供心の好奇心で、どんな遠くに冒険にでても、彼が傍にいた。
家に戻れないかもしれないと、不安になったときも、彼が傍にいた。
繋ぐ、掌の熱が……あれば……怖くはないと思っていた。
そんな言葉も、彼の面影も遠く感じる。
寂しいけれど、それは当たり前……。
寒い空気の中で、身体の中のアルコールが抜けていくのを感じていたが、もっと酔いを覚まそうと思った。駅の自動販売機に硬貨を入れて、ミネラルウォーターを買おうと、ボタンに指を乗せる。
ボタンには自分以外の別の誰かの指が置かれていた。

ガコンと音をたて、ボトルが取りだし口に滑り落ちた。
< 12 / 34 >

この作品をシェア

pagetop