テノヒラノネツ
そして三日後。

こういう偶然は、ほんとうに運が良いのか悪いのか―――――……。

どちらにしろ、やっぱり神様は意地悪だと思った。
自宅近くの最寄駅に到着して、自宅へ向う。
駅前から数メートル先の、割と大きな書店前でばったりと出くわした。
彼に……。
高そうなカシミアのコートを着た彼が、カバーのかかった新書本を片手に持っている。
千華は足が止まる。

「千華」
「……」
「この間はちゃんと帰宅できたのか? 酔っ払い娘」
「……帰宅できましたよ」
「すごい荷物だな」

片手にクリスマスツリーのケース。
もう一つの手にはバッグと、オーナメントや電飾モールが入ってる大きな紙袋……。
千華は母親に頼まれたと呟くように云った。

「ツリーを貸せ」

持ってやると云われて、千華は首を横に振る。
「……え、いいよ。持てるから」
「千華……こういう時は素直に、『お願いします』だろう?」
「……いや……いいよ。悪いよ」
「そうか、じゃあ、帰宅するまで、俺は大きな荷物を持った女と並んで歩いて、『あの男は女に大荷物を持たせてる平気な顔してやがる。あ、よく見るとプロ野球の古賀に似てなくね? あいつ気が利かないんだなー』と周囲に妙な思われ方をすることになるのは悪くはないわけだ?」
彼がそう一気に言いつのると、千華はクリスマスツリーのケースを差し出す。

「ごめんなさい。お願いします」

彼はまた、可笑しそうに笑って、クリスマスツリーを手にした……。
< 18 / 34 >

この作品をシェア

pagetop