テノヒラノネツ
「あのさ……古賀君」

ここは一つ、釘をさしておいたほうがいいのかもしれない。

――――古賀君自身が、好きな相手がいるのに、気のない幼馴染みの手なんか握ったらだめだよ。

云い方によって、千華は古賀君が好きだと受け取られる可能性もある。
それは事実だけど、今の彼の態度を改めてもらわないと、千華は一喜一憂という名の海で溺れ死にそうだ。

「あのね、私がああいう態度をっとったのは――――……」

と、千華が云いかけると、背後で母親が千華を呼びつける。

「何ふたりでごにょごにょ話し合ってんのよ、ほら、千華、こっち手伝って。祐樹君、電話しちゃいなさいよ。お母さんに。時間的にはどこのうちも夕飯の支度にかかるのよ」

なんてタイミングが悪いんだろう。
千華はキッチンに足を運び、母親の手伝いをすることにした。



小さな天使と、今年の話題に上ったアスリートの存在は、父親と兄のアルコール量を通常よりも多く摂取させ……ピッチを早め、会話を賑やかにし、義姉や母の会話も明るいものした。
千華は早々に潰れて、リビングのソファに撃沈している父と兄に毛布をかけ、母の手伝いをする。
母は古賀にお茶を勧めるように云い、義姉は赤ちゃんと一緒に2階の自室へ戻って行った。

「だらしないわねえ……うちの男連中は……」
「浮かれすぎなのよ」
千華はまだコップ酒を握っている。
「アンタは飲みすぎよ千華。いいかげんになさい」
「別に誰にも迷惑はかけていないでしょ。暴れるわけでも愚痴るわけでも、眠るわけでもないんだから」
「……だが飲み過ぎだ」
「ほーら、祐樹君だってそう云ってる」
「あーあ、まーたお母さんの『祐樹君はよくできて』ですか、比較にならないの。製造元が違うんだから」
「……はいはい、そうでした。でも、心配してるのよ」
ほら見ろと、彼の視線がそう云っている。
「いいじゃない、自由にさせてよ。確かに古賀君みたいにデキはよくないけれど、なんとか成人して会社に入って税金納めてんのよ? そのお金で何を買って何を飲もうが自由じゃないの?」
「……千華、やっぱり飲みすぎ」
「飲みすぎてない。お母さんも古賀君もうるさすぎ」
「古賀君ねえ……」
「何?」
「昔は祐樹君だったのにねえ」
「……彼女に対して悪いでしょ?」
「あら、祐樹君、彼女いるの?」
「これだけデキのいい男に彼女がいないと思ってたの? お母さんも間が抜けてるわね」
「千華」

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