テノヒラノネツ
古賀が嗜めるように千華の名前を呼ぶ。
ぐっと手首を掴れて、グラスを取り上げられた。

「千華はこっち」

彼の自分にだされたコーヒーカップを 千華に渡す。
千華はソーサーにカップを置くと、父と兄を叩き起こして、「部屋で寝てよ」と追いたてた。

「ごめんねえ、祐樹君」
「……慣れてますから」
「そーよねー」
「明日、千華をお借りしても良いですか?」
「あら。千華をデートに誘ってくれてるの? まあ、出かけるなら、ちょっと千華に頼みごとがあることだし―――――……でも、彼女はどうするの?」
「これから誘いますよ……でもいい顔されないんです」
「あらそうなの?」

「昔からとても鈍感な人なので、気がついてくれないんですよ」

千華の母親は、やはり年の功で、なんとなくわかったらしい。
「近すぎるからじゃないの?」
母親はそう云って、古賀が取り上げた 千華のコップを片付ける。
千華がぱたぱたとスリッパの音をたてて戻ってきた。

「父さんも兄さんも部屋に戻ったよ」

「あら、ありがと。じゃ、明日は祐樹君と一緒にデパート巡りしてきてね。」

「はあ?」

「だってあんたたち出かけるんでしょ? ついでなんだからいいじゃない? 今、祐樹君から聞いたわよ」

千華は彼の背中を見る。
「ちょ、なんで?」
びっくりして古賀を見る。
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