テノヒラノネツ
「どうした?  千華」
千華は呆然と立ちつくす。
「嬉しくないか?」
「……だ……だって……」
「ほら、通行人の邪魔だ」
手を繋がれて、千華は歩き始める。
「古賀君あの……今日の、この買い物、彼女への買い物なんだよね」
「そう」
「彼女……って」
「鈍感にも、ほどがあるな。俺より鈍い」
「だって、ちょっと、まって……信じられないし……だって、好きで付き合いたい人に送るって云ってた……」
「ああ」
「これを全部私に……? て……古賀君がその……好きな彼女って……」
「じゃ、はっきり云う。千華がずっと好きだった」
「……」
「その気が無い? 俺はやはり問題外か」
千華は言葉がでない。
こんなサプライズ、信じられない。
「迷惑か?」
「違う、迷惑じゃない……ただ……信じられないの」
「……」
「すごくびっくりしたの……嬉しいより……驚きの方が強い……古賀君……これ、私のために買ってくれたの? いいの?」
「全部お前のサイズだろう。本人を連れて選ばせた方がサイズで悩まずにすむし、どうしたって好みがでるしな。気に入ったものを選択するはずなんだ……いらないのか?」
千華は慌てて首を横に振る。
「違う、そうじゃないの、嬉しいよ、でも、その……嬉しいのは……プレゼントもそうだけど……古賀君の気持ちの方が……もっとずっと驚いたし……その……嬉しい……」
千華自身が涙声になっているのに気がついて、彼は振りかえる。
「千華……」
「ありがとう……」
「泣くな。気が強いくせに泣き虫なのは、小さい頃から変わらないんだな」
古賀は、千華の頭を抱えるようにして歩き出す。
「だって、すごく嬉しい……古賀君じゃなくて、祐樹君って、呼んでもいいんだよね」
「ああ」
千華は彼の左手を握り締める。
「こうして、ずっと、手を繋いで、家に帰ってもいいんだよね」
「ああ」

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