君のこと。
0,1
頬にあたる風がまだ少し冷たい季節。
太陽はキラキラと輝いて、あたりはとても美しい。
「・・・・ふう」
電車のホームで私は思わずため息をつく。
この華加高校に来るには、私の家から何本もの電車に乗り、その後は駅からバスで学校へ行くしかない。
朝も早く、いつも6時30分起き。自分の好きで進学した高校とはいえ、やはり遠すぎたか、といつも後悔する。
今日は4月7日。
新学期だ。
この春から華加高校の3年生になる、私、楠ゆずは書道部に所属している。
腕はそこそこ。小学校高学年から習い始めた書道に魅了され、書道で有名なこの高校に進学した訳だ。
そんな新学期早々、書道部にはとても重大な役割を与えられた。
それは、
「自分の好きな言葉を好きなように書き、新入生に感激してもらうこと」
まだ春休みに入る前―――
部長であると共に、私の親友でもある立花友美が胸を張り誇らしげに話を始めた。
「自分の好きな字?」
お手本はないのか、と言わんばかりに言葉を紡ぐ級友。
「そう。例えば、友とか・・・美とか」
それはお前の名前だ、とそこにいた誰もが突っ込みを入れたかったことだろう。
そんなことを考えているうちに、華加高校直通バスがやってくる。
それに私は足を踏み入れると、一番前の席に座った。
いつもなら7時30分にバスに乗るのだが、今日は特別だ。これから友美が言う、「自分の好きな文字」とやらを書かなくてはいけない。そのため、時刻は6時50分を指していた。
まだ温まりきっていない車内。バスの中には誰もいない。
少し伸びをして、欠伸をした。
それから15分、私はバスに揺られ続けた。