悪女の恋〜偽りの結婚〜
 ホテルのエントランスの前で俺は足を止めた。そんな俺の顔を、遥は上目遣いで覗き込み、


「どうしたの?」と言った。


「帰る」


 俺がボソリとそう言うと、


「奥さんだって楽しんでるんだから、孝司も……、ね?」


 と遥は言った。

 なるほど。遥の言う通りだよな。俺だけが毎日イライラさせられて、バカみてえだ。


「それにね、あたしいい事考えちゃったの」


「いい事? どんな?」


「後でじっくり話してあげるから……」


 俺は遥の腕を引き、ホテルへ入って行った。


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