悪女の恋〜偽りの結婚〜
「奥さんと喧嘩して、だから先週はイライラしてたんだろ?」


「ちげえよ」


「じゃあ、なんで元気ないんだよ?」


「あ? 実はさ……」


 心配してくれる片岡にだけは、話そうかと思った。鞄に入れてある、離婚届の事を。今朝、役所に寄ってもらって来た、薄っぺらい用紙の事を。


「おお、何だ何だ?」


「いや、何でもない」


 やはり言うのはやめておこう。お節介な片岡の事だ、言えば絶対に俺を説得するに決まっている。思いとどまらせようとするだろう。

 今それをされたら、俺の決心はグラつくに違いない。それでなくても、決心が付き兼ねてるんだから……


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