悪女の恋〜偽りの結婚〜
「中山さん……?」


 俺は横を歩く中山春に声を掛けた。彼女は背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに前を向いて歩いていた。ヒールの音を響かせながら。


「はい?」


 中山春は前を向いたまま、やはり抑揚のない声で返事を寄越した。


「妹さんはいますか?」


 続いてそう質問を投げると、
彼女は「はあ?」と言って今度は俺に顔を向けた。胡散臭そうな表情ではあったが。


「妹さんの名前は秋さん、ではありませんか? 春夏秋冬の秋」


「確かに秋という名前の妹はいますが、それが何か?」


「やっぱりそうですか? 最近ちょっと知り合ったものですから」


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