悪女の恋〜偽りの結婚〜
「同姓同名の別人だと思います。珍しい名前ではありませんから」


 中山春はそう言ってまた前を向いて歩き、エレベーターのボタンを押して澄ました顔をしていた。


 それがなんだか、ナンパ男をあしらっているように見え、俺はムッとした。確かに珍しくないかもしれないが、そう多い名前とも思えないし。


 俺は癪に障り、

「同居人がいますよね? 男の」


 と、低い声で言ってやった。

 すると中山春は、ハッとした顔を俺に向けた。目は大きく見開かれており、まさかそこまで大きな反応をするとは、俺は思ってもみなかった。


 エレベーターの扉が開いたが、中山春はそれに気付かないようだった。


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