悪女の恋〜偽りの結婚〜
「はい?」


「同居している事を、秋から……?」


「ええ、聞きました」


「何て事を……!」


 そう呟くと、中山春は悔しそうに唇を噛んだ。茶髪男の事は、内緒にしとくべきだったのか? でも、なんで?


「お願いです。その事は、誰にも言わないでください」


 俺は不覚にも、ドキッとしてしまった。中山春が、潤んだ目で、すがるような顔で俺を見上げていたから。色っぽくて儚げで、思わず抱き締めてやりたくなるような、そんな表情。これじゃあ専務どころか、どんな男でもイチコロだな。


 もちろんそんな衝動はグッと堪え、「いいですよ」と俺は答えた。なぜ隠したがるのかは、さっぱり分からなかったが。


< 141 / 175 >

この作品をシェア

pagetop