悪女の恋〜偽りの結婚〜
「ちょっとタバコを吸って来る。そのまま戻らないかもしれないが、心配すんな」


「わかった、心配なんかしねえよ。俺は俺で楽しむさ」


「そうしてくれ。じゃあな」


 片岡に手を上げ、俺は外のテラスに出た。パーティが始まったばかりのためか、そこには誰もいなかった。


 半年前は春だった。今は秋。季節は違うが、少しひんやりとした空気の感触は、あの日と同じだと思う。


 携帯の灰皿をポケットから取り出し、タバコに火を点けると、夜空に向かってフーッと煙を吐いた。


 空には、かすかにではあるが星が見えていた。これも、あの日と同じ。


 タバコを消し、手摺りに寄り掛かっていると、ついにその時は来た。


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