悪女の恋〜偽りの結婚〜
 パッと花が咲いたような、あるいは夜空を流れる雲の合間から、突然満月が現れたような、そんな感じがした。テラスに、結衣が現れたから。


 一条陸に腕を引かれ、何やら彼に抗議しながら現れた結衣は、俺に気付いて目を大きく見開いた。


 キラキラ輝く艶やかなドレスを纏った結衣は、頬が少し細くなった事以外は、半年前にここで出会った結衣そのままだ。


 一条陸は、口パクで俺に何かを言うと、パーティ会場へと去って行った。

 『任務完了!』と言ったように見えたが、どうなんだろう。

 そう。俺が彼に頼んだのは正にこの事だった。つまり、結衣を今日のパーティに連れて来て、この時間にテラスへ連れ出す事。


 俺が見つめていると、結衣はゆっくりと俺に近付いて来た。驚きと戸惑いと喜びが、混ざりあったような表情で。


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