悪女の恋〜偽りの結婚〜
 結衣の手は、俺の頬に触れただけだった。柔らかくて、温かい手だった。

 思わず目を開くと、結衣の顔が俺の顔に近付き、キスをされた。俺は結衣の頭を撫でながら、久しぶりの結衣との甘いキスに、しばし没頭した。


「半年前にここで出会った事、覚えてるかい?」


「もちろん覚えています」


「あの時から、もう一度やり直したいんだ。だから、殴ってくれないと困るんだけどな」


「もう殴ったりしません」


「どうして?」


「あの時、私はあなたを殴るべきじゃなかったんです。“ありがとう”って、言うべきだったんです。私もやり直したい。そこから」


「そっか」


「ありがとう」


「どういたしまして、お嬢さん」


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