悪女
むしむしと蒸す廊下の窓ガラスは湿気を抱いて結露が出ている。

クリアパープルの下敷きは段ボールの下敷きになっていて、床に擦り付けられ傷がついていた。

「おいし、」と隣で声がする。

グレープフルーツの紙パックをしぼめさせながら紫恵は言った。
流れる沈黙になんとなく俺は焦った。

集中したふりをすればなんとなく沈黙から逃れられる気がして一度床に置いた段ボールカッターと段ボールを手にした。

ちらりと隣の彼女を盗み見るとパコパコと紙パックを膨らませたりしぼめさせたりする。
その目はどこにも向けられてはいない。
目は開いているが何も見ていないのだ。

蒸す廊下ではみんなが汗をぬぐっていた。
彼女は流れる汗をシャツを引っ張って汗を拭く。

盗み見がばれない程度に目線をはずした。
手元の段ボールに焦点を合わせる。

< 9 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop