【短編】message
あの誕生日以来、ときどき僕は死んだ人の『声』を聞く。

父さんと母さんは、僕の頭がおかしくなったんじゃないかとか反抗期じゃないかとか
色々と心配していたようだった。

次第に僕は『声』の存在を隠すようになっていった。

僕以外の人間には、『声』は聞こえない。

幸か不幸か、僕には死んだ人の姿はいっさい見えないんだ。

聞こえるのは『声』だけだから、テレビに出てる霊能者みたいな霊視ってのはできるはずもない。

女の子の声とか、年配の男性の声とか判別できる特徴はそんなものなのだ。

この12年ほどの経験で学んだのは、

その事実は他人には信じてもらえないということ、
たちまち変人か嘘つき扱いされてしまうことくらい。

黙ってさえいれば、日常生活にはたいして支障はない。

そうして、普通に生活し今年、大学生になった僕は地元を離れて一人暮らしをしている。

「いってきまーす。」

誰もいない部屋に挨拶をし、バタバタと靴を履くとドアに鍵をかけた。

一歩外にでると、Tシャツにじわっと汗が滲んだ。

まだ七月だというのに、なんという猛暑なんだろう。
照りつける日差しが、弱った僕の体力をどんどん奪っていく。

急がないと講義に遅れてしまうのに。
出席しないと単位が危ない講義だった。

昨夜は仲間と少し飲みすぎてしまったせいか、
軽く頭痛がする。

それでも額を押さえながらおぼつかない足取りで走り出す。

いつもの道では間に合わないだろうと踏んだ僕は、普段は通らない路地に進路を変更した。
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