【短編】message
路地は少し涼しかった。
汗がひいて、腕の毛が逆立つのを感じた。

いる・・・。僕にはなんとなくわかっていた。

「ねぇ。誰かいるの?」

誰一人としていないその場所で、僕は恐る恐る尋ねてみた。

『見つからないの・・・。』

僕のすぐ右下から、確かに女の子の『声』が還って来た。

ドクドクっと僕の心臓が脈打つ。

視線をどこに向けていいのかわからないまま、僕は『声』の主に話し掛けた。

「何を探しているの?」

『大事なもの・・・大事なものが入っているの。』

僕に聞こえる彼女の『声』は、そこら辺にいる小学生くらいの女の子となんら変わりはなかった。

不思議と恐怖がほんの一瞬のうちに消え去っていた。

「ここで失くしたのかい?」

『わからない。気がついたらここにいたの。』

「一緒にさがしてあげようか?」

『ここから動けないの。』

何メートルか先で、通行人の会話が聞こえた気がした。

他人から見たら、僕は電柱に向かって話し掛けるおかしな人だ。


「そうか。明日また来るよ。」

道路においた鞄を手に持ち直すと、彼女の返答を待たずに慌てて走り出した。
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