【短編】message
目を開くと、目覚まし時計の針が13時46分を指していた。

カーテンの隙間からは、明るい日差しが溢れ出している。
外はきっと焼けつくような暑さに違いない。

「寒いな・・・。」

足元で無残に丸まったタオルケットに手を伸ばし、エアコンに視線を向けるとクーラーが23度の設定でつけっ放しになっている。
タイマーをセットし忘れたまま寝てしまったらしい。

8畳ワンルームの僕の部屋は隅々まで冷え切っていた。

床に落ちているTシャツをかぶりながら、テレビの電源を入れた。

結局テスト勉強もしないまま眠りにつき、昨日と同じ時間に起きてしまったようだ。

殺風景な冷蔵庫にたたずむ牛乳にパックごと口をつけて乾いた喉を潤した。

さて、今日は約束があるんだった。
人間の女の子じゃなく、幽霊の女の子とのだ。

あの子ともう一度話してみたい。
チャンスだと思ったのだ。

僕が亡くなった人たちの『声』が聞けることを証明するチャンスなんだ。

小さい頃から備わっていたこの変わった聴力は、他人に証明することが不可能だった。

あちらこちらから、こぼれるように聞こえる『声』は、初めて聞いたおばあちゃんの『声』みたいに優しいものじゃなかったし、

『痛い痛い』や『死にたくない』

といったまるで断末魔の叫びのようなものばかりだったから。
僕自身、頭がおかしくて幻聴が聞こえてるのかもしれないと悩んだ時期もあった。

きっと、あの子が答えに導いてくれる。
そんな期待を勝手に抱いていた。

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