あめ玉ふたつとキャラメルひとつ
椅子から立ち上がり、静かに黒板の前へ進み出た。お化けである以上、忍び足は基本中の基本である。

「お化けさん、ここでいつも何をしているの?」

青色の字はそう読めた。ふざけた発言だが、とても綺麗な字で書かれている。
いたずらであることは確かだ。本当にお化けがいると思い込んでいる生徒の仕業だろう。高校生でもそんなに幼稚な人がいるものだなあと少し笑って消した。
いたずら好きの子供に、私の部屋を汚して欲しくは無い。確かに私の考えは勝手だった。

校門の施錠時間が迫り、部屋中のオレンジ色も薄れかけていた。
私はラジカセの中からCDを取り出し、ケースにしまって机の中に入れる。コンセントを抜いて元の場所へ戻す。後片付けもしっかりして帰るのが日課だ。
鞄を右肩にかけ、静かに歩き、階段を下りる。まだ人の気配はあるが、静かに歩いているつもりの私の靴音さえ少し響いていた。

校門に近づくと、門の前で防犯活動とやらで見張りをしていた生徒指導の小山先生と目が合った。
「佐々原、こんな時間までいつも何をしているんだ?」
小山先生は毎日ここで施錠の時間まで見張りをしている。私が施錠ぎりぎりで帰ることがお決まりなことは、小山先生が一番よく知っていた。
そろそろ何か怪しまれるのではないかと感じていたのが、ついに聞かれてしまった。
「部活です。家庭部。刺繍が苦手なので放課後は練習を。」
私が淡々とした口調で答えると、納得して笑顔で片手を挙げた。もちろん言い訳だが、小山先生は国語科の先生で、担任でも無いので監督範囲外だ。四十歳くらいだろうか。笑うと目が細くなり、表情が優しかった。
「さようなら先生。」と別れの挨拶をして、軽く会釈をした。
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