あめ玉ふたつとキャラメルひとつ
「学校中で騒いでるよ、君の事。」
「なぜ?」
「お化けが出なくなったって。」
「本当にお化けだと思われてたのね。」
「今度はどこに隠れたんだろうね。」
「教室にちゃんといるわ。」
矢野健太との会話は相変わらず続いた。面と向かって話をすれば、十秒も掛からない会話も、数時間かかる。休み時間ごとに、それぞれ返事を書き換えにあの部屋に行くのだ。私はあの部屋と同じ階の教室で、一番端まで歩けばすぐに到着する。矢野健太の方は、何階のどこの教室から来るのか分からない。しかし私が見に行くと、必ず赤い文字から青い文字に書き換わっている。
そして一度もタイミングがずれることもなかった。私が部屋に入って、矢野と鉢合わせになったことは一度もなかったし、私が書き換えている途中で矢野が入ってくることもなかった。
私がそのことを黒板に書くと『僕はお化けだから』と矢野は言った。
もちろん冗談であることは分かっているのだが。