ブラウン管の中の彼女



「悪いな祐一郎。どうしても手が離せなかったんだ」


母さんは片手を上げて出迎えてくれた。


「いいよ。人に物を届けるのは慣れてるし」


僕は真っ先に香川さんの顔を思い浮かべた。


「一応、中身確かめて」


母さんは僕が手渡した茶封筒からひとつひとつ書類を引き抜いていった。


「ん。全部ある」


「じゃあ帰るね」


運の悪いことに樺摘さんの研修先は母さんたちの勤める病院だった。


鉢合わせなんてしたくない。


「待て」


母さんは立ち去ろうとする僕の手を引いた。


「コーヒーくらいはおごってやる」


かあさんの笑った顔は樺摘さんにそっくりだった――…。


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