ブラウン管の中の彼女
「盗み聞きは悪趣味だって知っていたか?」
廊下の角まで来ると私はそう呟いた。
「姉さんこそ、知ってて聞かせてたんだろ?」
樺摘は思ったとおりその辺の空き部屋から出てきた。
白衣が驚くほど似合わない我が弟にそっとため息を吐く。
「過保護だな」
「それはドーモ…」
「祐一郎が困っていたぞ?」
樺摘は途端に無言になった。
「樺摘、祐一郎ももう子供じゃない。自分のことは自分が一番良くわかっているはずだ。余計な手出しをするな」
祐一郎は一人前の“男”の顔をしていた。
自分の子供の成長っていうのは物悲しいものだと思っていたが、そうでもないらしい。
「姉さんはわかってない。あいつは優しすぎるんだ…。俺たちに対しても、実早に対しても…」
樺摘…本当に分かってないのはお前かもしれないぞ…?
その台詞はかろうじて飲み込んだ…。