ブラウン管の中の彼女


「盗み聞きは悪趣味だって知っていたか?」


廊下の角まで来ると私はそう呟いた。


「姉さんこそ、知ってて聞かせてたんだろ?」


樺摘は思ったとおりその辺の空き部屋から出てきた。


白衣が驚くほど似合わない我が弟にそっとため息を吐く。


「過保護だな」


「それはドーモ…」


「祐一郎が困っていたぞ?」


樺摘は途端に無言になった。


「樺摘、祐一郎ももう子供じゃない。自分のことは自分が一番良くわかっているはずだ。余計な手出しをするな」


祐一郎は一人前の“男”の顔をしていた。


自分の子供の成長っていうのは物悲しいものだと思っていたが、そうでもないらしい。


「姉さんはわかってない。あいつは優しすぎるんだ…。俺たちに対しても、実早に対しても…」


樺摘…本当に分かってないのはお前かもしれないぞ…?


その台詞はかろうじて飲み込んだ…。


< 165 / 280 >

この作品をシェア

pagetop