ブラウン管の中の彼女

「吉崎先生~!!」


樺摘は看護士に呼ばれてチッと舌打ちをした。



「とにかく、姉さんは黙って見てろ」


そう言うと樺摘は看護士のところに歩いていった。


「全く…」


人の話を聞かない奴だな…。


自分の弟だけに嫌になる。


「佐和(さわ)~書類は届いた~?」


お願いだから廊下でスキップするのはやめて欲しい。


「間宮先生、病院では名前で呼ぶなって言ってるだろ?」


「今は樺摘くんがいるから、吉崎先生じゃかぶるじゃん」


もっともらしい理屈をこねながら祐也(ゆうや)は私の前で足を止めた。


「祐一郎、元気だった~?」


「樺摘に不機嫌になってた」


ハイッと持っていた書類を祐也に渡す。


「ありゃま、それは珍しい」


祐也は口をへの字に曲げた。


「あの子は感情を表すのが下手なのにね」


いつだって祐一郎は笑っているから…。


甘えていたのかもしれない。


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