ブラウン管の中の彼女


撮影か…。


見る元気もなくなってきたかも…。


そんな僕をよそに香川さんの言ったように間もなく撮影が再開された。


それはさらに僕を陥れるようなシーンだった――…。






「“私…あなたが好き…好きなの…”」






実早ちゃんは熱っぽくそう言うと、相手役の俳優に抱きついた。


頭のどこかがヒヤリとする。


これは“演技”だ。


実早ちゃんがどんなに頬を赤らめて相手を見ていようと


これは“演技”だ。


頭ではわかっているはずなのに…。


僕はぎゅっと唇を噛み締めた。


不意に思い出したのはあの言葉。


“もし、好きな人に好きだって気づいて欲しかったら祐ちゃんならどうする…?”


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