ブラウン管の中の彼女
「祐ちゃん…」
ゆっくりと顔を近づける。
祐ちゃんの眼鏡は倒れた拍子にその辺に転がっていた。
きっと祐ちゃんの目には実早の姿はボンヤリとしか映っていないだろう。
好きなの…。
大好きなの…。
実早の愛を受け取って欲しい――…。
「……実早ちゃん、僕朝練遅刻するよ…」
祐ちゃんは膝から降りるように促した。
むぅ…。
実早は渋々、膝から降りた。
祐ちゃんはその辺に転がったメガネを拾った。
「じゃあ僕、行くね。実早ちゃんも久しぶりの学校だからがんばってね?」
パタンとリビングのドアが閉まる。
足りない…。
確かに祐ちゃんは優しいよ…?
でもね…?
何かが足りない気がするの…。
香川ちゃんが迎えに来るまで私と祐ちゃんに足りないものを考え続けた――…。