誘惑Baby
「ん」
本屋から出たすぐにある、ベンチに座る。
「ありがと…」
俺から飲み物を受け取ると頬にそれを当てた。
「あったかい…」
と、俺に微笑む優子の目は少し潤んでいた。
「そっか…。…大丈夫か?」
「………うん」
俯いて答える優子は、今どんな表情をしているか分からなかった。
「俺が、いるから…」
とっさに口から出た言葉に、自分らしくないと恥ずかしくなる。
それは、優子も感じたらしく、大きい目を更に大きくして俺を見つめた。
「な、んだよ…?」
ばつが悪くなり、目を逸らす。
「陽平らしく…ない…。ちょっと…びっくり」
「う、うるさいな…。」
思ったんだから…しょうがねえだろ。
なんて、またまた自分らしくないようなことを言いそうになるのを抑えた。
「…あははっ、陽平、照れてる!」
俺のほっぺたをつんつんしながら、嬉しそうに笑う。
かわいいな、ちくしょう。
俺は優子の手を引き寄せると、優しく頬にキスした。
「…ほんと陽平、おかしい…」
さっきとは、打って変わって顔を真っ赤にして俯いた。
気づけたら良かった。
いや、気づいてやらなきゃならなかった。
優子の異変に。
優子の不安に。
馬鹿だから……、気づけなかったんだ…。
ごめんな、優子。
馬鹿な、バカな、ばかな、俺………。