誘惑Baby
心の痛み
あれから、二週間がたった。
優子は、今までと変わらず、あれ以来あの高校生を見かけることもなかった。
普通に午前中の講義を終え、食堂に一樹と向かっていたとき。
中庭に優子と坂井さんを見つけた。
けど、
優子が泣いてるように見えた。
(優子…?)
近づこうとしたとき、
「あっ、杉浦くんっ」
「えっ?」
俺を呼び止める声に、振り返ると、この前呼び出された女の子がいた。
…―――
あの次の日、俺に用事があると言っていた彼女は、やはり告白だった。
もちろん、しっかり断ったのだが…何故かやたらと話しかけてくるようになった。
「あー、えと何?」
優子んとこ、行きてえのに…。
と、心の中で少しイライラしながら彼女を見る。
「えっと、前の講義のノートを見せてもらいたくて…」
ノート?
てかお前、いたろ。
前の講義。
めんどくせえ…。
「あー、わかった。あとで」
そう言って、勝手に話を終わらせて優子がいた方を見ると、そこに姿はなかった。
「…はあ…、一樹行くぞ」
「…陽平、あの扱いは可哀想じゃん?」
あの女からだいぶ、離れたところに来てから一樹が小声で言う。
「いんだよ。俺、あいつ好きじゃねえし」
優子のとこにも、行けなかったし。
俺は大きくため息をついた。
「でも、確か田崎の弟って、優子ちゃんと同じ高校だったみたいじゃん?」
あいつ、田崎ってゆうのか…。
「あいつ、弟いんの?」
食券を買いながら、問いかける。
「今、高3らしいけど。いい噂聞かねえなあ」
一樹と一緒に列に並びながら話を続ける。
「どうゆう意味??」
「遊び人、だとか。姉弟そろって…ね」
「…ふうん…」
遊び人、ねえ。
厄介なのに目え付けられた、とまた大きなため息が出た。