誘惑Baby
「杉浦っさん…!杉浦さん!!」
後ろから、俺を誰かが呼んだ。
振り返ると、坂井さんが走ってきていた。
「坂井さん!?」
肩で息をしている坂井さんは、ひどく焦っているようだった。
「ゆ、こ…優子っが!はあっ…田崎くんにっ…」
た、ざき…田崎…?
「田崎君たちにっ連れてかれっはあ…」
「連れてかれた…?」
こくこく、と大きく頷く坂井さんは涙目で言った。
…――――――
「はあっはあっ、ちくしょうっ。優子っ…」
―優子は、田崎くんてゆう人にストーカーみたいなのされてて。さっき、2、3人で優子を囲んでて…あたし、止められなくて…すみません。…でも、サッカーサークルの部室の方に向かったと思います…―
坂井さんの言葉を、思い出してまた歯痒くなる。
自分の馬鹿さに飽きれる。
優子を守らなきゃいけないのに…。
サッカーサークルの部室の前に着いた。
「陽平…陽平…」
かすかに聞こえる。
優子の声…。
「陽平って、だれだよ!!!!おいっ!!!」
中から男の声がした。
中に、いる。
優子……。
バンッ!!!!!!
「開けろよ、」
ドアを思いっきり蹴る。
優子、優子、
絶対…守るから。
「なっ、誰だよっ!?!?」
尋常じゃないような声で、叫ぶ中の男。
「いいから、開けろよ。」
静かに、怒りに満ちていくのがわかった。