誘惑Baby
「陽平、聞いてる…?」
むっと、口を結ぶ。
(あー…、キュン)
「聞いてる、よ。帰り、絶対本屋寄ってこうな」
「うんっ」
それから、優子を教室まで送って、俺も自分の教室に向かった。
(眠いなあ…)
軽く伸びをしながら、廊下を歩いているとどこからか走ってくる音がする。
「……来たな…」
「陽平ー!おっはよ!!」
「ぐえっ」
後ろから、走ってきて思いっきり俺にしがみつくこいつは
田中一樹(タナカ カズキ)
21歳
俺の高校からの友達。
「お前ね…、殺す気?」
俺は首もとを直しながら一樹を睨む。
「陽平、朝からいちゃついてたから、仕返し」
「訳わかんねえよ!」
「だって俺、陽平のこと愛して」
「きもい」
一樹が、言い終わる前に遮るのはいつものことで。
高校の時から、ずっとこんな感じだから、可哀想とかそんなものはない。
「なんだよう。ツンデレだな、陽平は」
「うるさいよ」
「優子ちゃんの前では、デレデレなのに…」
「う、うるさいな…」
「陽平!そのデレ顔は鼻血がっ、いてっ!!」
一樹の顔面を、握り拳で叩いてそそくさと教室に入った。