誘惑Baby
「ん、どうぞ」
ほかほかと湯気がたつコーヒーを、馴染みのカップに入れて渡す。
「ありがとう」
それを大事そうに受け取ると、ふんわり微笑んだ。
「…?」
不思議そうな俺の視線に気付き、恥ずかしそうに笑った優子。
「陽平の淹れるコーヒー…大好きなの」
そんなこと言うもんだから、抱き締めたくなったがなんとかこらえた。
「コーヒーぐらいならいつでも淹れますよ…」
恥ずかしさゆえに、あさっての方向を向きながら答える。
そんな俺にクスッと笑うと、小さな声で話し始めた。
「あたしね、お姉ちゃんがいるって言ったでしょう?すごく、すごく似てるの。あたしとお姉ちゃん。」
静かにカップを置く。
「お姉ちゃんもう25になるんだけど、二年前だから…そうだね23ぐらいの時。あの人に…」
心臓が壊れるほどうるさかった。
もし、もし…優子が…。
あの男に…。
「あの人が、あたしと間違えて…お姉ちゃんを…襲ったの。」
ほっと、してしまった自分が憎かった。