恋する手のひら
教室に戻り、秀平とタケルが談笑してる姿を見つけて駆け寄る。

夏休みの後、あんなに揉めてたのが夢だったんじゃないかと思えるほど二人の関係はみごとに修復されていた。

私も秀平と自然に会話ができるくらいには振っ切れていたし、表面的には以前の三人と何ら変わらなくなっていた。

「秀平、今聞いたんだけど…」

そこまで言いかけて止まる。

さっき佐々本先生は聞かなかったことにして欲しいって言ってたけど。
それって、タケルは何も知らないってことじゃないの?

「何?」

すごい剣幕で近付いたくせに、急に押し黙った私に秀平は不思議そう。

「何でもない…」

もしそうならタケルの前で聞けないよ。

秀平と競った末に選ばれたと思ってたからこそ、K大の推薦をあんなに喜んでいたのに。
秀平が辞退してたなんて知ったら、タケルは絶対にショックを受ける。

下手すれば、秀平に推薦枠を譲られたなんて誤解して、タケルまで辞退するなんて言い出すかもしれない。

「何だよ。
そういや林原に呼び出し食らったんだって?」

隣でタケルが私をバカにするようにケラケラ笑ってる。
もう、人の気も知らないで。

「調査票に何て書いたんだよ」

タケルが私の頭に手を置いて笑う。

このまま三人で一緒にいたいから地元がよくて、タケルがいるからK大を受けるなんて、ちゃんと進路を考えてる二人に言えるわけない。
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