恋する手のひら
「迷ってたって、例の建築のこと?」

そう聞くと、秀平は意味深な表情で私を見た。

優しいけど悲しそうな顔。

あのときは迷ってたから断ったって言ったけど。
もしかしたら、推薦を断ったことを今は後悔してるのかもしれない。

「…まぁ、そんなとこ」

秀平はいつの間にか上履きからスニーカーに履き替えてる。
私も慌てて革靴に履き替えて彼を追った。

「ねぇ、タケルには…」

「言う必要ないだろ。
だから実果も言わないで」

やっぱり、タケルは知らないんだ。
さっき彼の前で聞かなくて良かった。

私は頷きながら、秀平が推薦を辞退していたという事実に少しだけホッとしてる自分に気付いた。

だってつまり、秀平が推薦を取れなかったのは、バスケの腕を認めてもらえなかったわけじゃないから。

だけど、秀平が辞退してなければ、タケルの進学もどうなってたか分からないなんて、タケルには絶対言えないや。


倉庫は埃っぽくて、あんまり長居はしたくない感じだった。

電灯を点けたのにあまり明るくならない。
中はサッカー部や野球部の備品ばかりで、ようやく折り畳まれたテントを見つけたのはだいぶ経ってからだった。
< 167 / 258 >

この作品をシェア

pagetop