恋する手のひら
身動きがとれない。
彼の体温と首元に感じる吐息に、全身が麻痺していく。

秀平にこんなに強く抱きしめられたのは初めてだ。

触れている部分から秀平の動悸が伝わって、私は思わず彼の制服の裾を掴む。

自分に嘘はつけないってどういうこと?。
聞き返したいのに、体が強張って言うことを聞かない。

秀平はそんな私に気付いたのか、体を離して私を見ると、私の髪をそっと撫でる。

「ずっと後悔してた。
あの日、お前の気持ちに応えなかったこと」

インターハイの後。
やっていく自信がないと言って私を拒んだ秀平。
私が悲しんだのと同じくらい、秀平も悲しんでくれていたの?

「あんな自分勝手な振り方したのに、お前が今まで通りに接してくれる度、自分の選択が間違ってたのを突き付けられてるみたいだった」

ねぇ、秀平。
信じていいの?
もう期待して裏切られるのは嫌だよ。

「ていうか、足踏み外して落ちてくるのは反則だろ」

秀平は眉を下げて溜め息をつく。

「こんな風に抱きしめたら、歯止めが効かねぇよ」

秀平は私の頬に触れるとと、親指の腹でそっと唇をなぞる。

「好きだ。
どうしようもないくらい」

秀平の言葉に涙が溢れる。

「もう、我慢するのはやめた」

秀平は私の頬に触れたまま、ゆっくり顔を寄せてくる。
キスを予感して目を閉じたとき。

「───何してんだよ…」

背後から震える声が聞こえてきた。
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