恋する手のひら
こんなに怒ったタケルを見たのは初めてだった。

私が身体を震わせてるのに気付き、秀平は私を庇うように一人で立ち上がった。

「見たままだよ。
俺は実果が好きだ。
だからキスしようとした」

秀平が無抵抗なのを伝えるように手を上げながら言った瞬間、タケルが彼の頬を殴った。

秀平の身体が地面に崩れる。

「キャー…」

私は思わず悲鳴を上げ、手で顔を覆う。

恐る恐る目を開けると、秀平が口元に滲んだ血を腕で拭っているのが見えた。

容赦なく秀平に掴みかかろうとするタケルに気付き、私は夢中で彼に駆け寄り腕を掴んだ。

「止めてタケル!
何でそんなこと…」

「実果は黙ってろ。
これは俺と秀平の問題なんだから」

タケルは私の手を振り払い、秀平の胸元を掴む。

「止めてってば!」

「こいつは、勝負に負けたんだ!
負けたのに、約束を破ったんだ」

勝負?約束?
タケルは何を言ってるの?

「───賭けたんだよ!
秀平がK大の推薦を取ったら実果を返してやる。
だけど俺が取ったら実果は俺がもらう。
だからそのときは、秀平を諦められるようにきっぱり振ってくれって」
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