恋する手のひら

「あら、タケルの大好物。
ありがとうって伝えといて」

「うん。
…タケル、部屋にいる？」

「いるわよ、呼ぶ？」

おばさんが二階を指差しながらそう聞いてきたので私は首を振る。

「大丈夫、ちょっと上がってくね」

私は靴を脱いで二階に上がった。

タケルの部屋の前でもう一度深呼吸すると、迷わないうちに急いで扉を叩いた。

「タケル？」

部屋の中は無言。

私がもう一度叩こうとしたとき、扉が開いて中からタケルが顔を出した。

表情のない顔。
こんな風にさせたのは私、そう思うと怖じけづきそうになるのを堪えて口を開いた。

「話があるの…」

「───俺はない」

タケルは冷たく言うと、そのまま強い音を立てて扉を閉めた。

閉められた扉の前で私は呆然と立ち尽くす。

酷いことをしたのは私。
だけど、言い訳どころか謝らせてもくれないの？
私とは話をする必要もないってこと？