恋する手のひら
「そんなんじゃないもん。
ただ…」

私は廊下の二人に目をやる。
苦笑しながら秀平の制服をそっと掴む希美ちゃんの動作がやたらと自然で、二人がまた付き合い出したのだと錯覚しそうになる。

やばい。
希美ちゃんは、女の私から見てもめちゃくちゃかわいいし、何より、やっぱり二人は似合い過ぎてる。

「───何であの二人って別れたの?」

不意に尋ねると、タケルは黙った。
いつもうるさいくらいのタケルが何も言わないのは、恐らくその理由を知ってるから。

秀平にとってタケルは親友だし、理由を話してるかもしれないとは思ってたけど、私だけ除け者にされてたことに少なからずショックを受ける。

どうして別れたのかを話すのは無理でも、二人が寄りを戻す可能性がありそうかどうかだけでも教えてくれてもいいのに。

不満そうな顔をしてると、タケルに額をつつかれた。

「眉間にシワ出来てるぞ」

「…」

私は膨れたまま、眉間をさする。
可愛い希美ちゃんにこれ以上差をつけられたら、手の施しようがなくなってしまう。

「素直、素直」

タケルが私の頭をよしよしと撫でる。

タケルはいつもこんな感じ。
昔からずっと兄弟みたいな、お日様みたいな、暖かい存在。

「───お前らって、本当に仲良いのな」

振り返ると、いつの間にか戻って来ていた秀平が呆れ顔で私たちを見ていた。

「お前こそ、元カノと何話してたの?
随分楽しそうだったけど」

ちょ、ちょっとタケル、直球すぎるよ!

そう心の中で突っ込みながらも、聞きたいことを代わりに聞いてくれて、実は少し助かってたりする。

「別に。
ただの世間話だよ」

秀平はそう言ったけど、私は内心穏やかじゃない。

秀平が希美ちゃんと言葉を交わすだけで、不安に押し潰されそうになる。

私って、どれだけ独占欲が強いんだろ。
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