恋する手のひら
騒ぎながら1-Dの模擬店に向かった実果たちを見送った後、俺は食堂にある自動販売機に向かう。
コーヒーを買い、座る場所を探してると先客がいた。

「───実行委員は集合かかってたんじゃなかったっけ」

俺が隣に腰を下ろすと、タケルは俺を見て舌を出す。

「三年の実行委員がそんなに多忙な訳ないだろ。
分かってて聞くな」

やっぱりな。

「気なんて遣わなくていいのに」

コーヒーを一口飲みながらそう言うと、タケルは少し黙った後に首を振る。

「気を遣ったわけじゃねぇよ。
俺がまだ無理なだけ」

タケルはそう言ったかと思うと、頭を掻きむしる。

「どうにかしろよ、お前の彼女。
本気でもう俺が何とも思ってないって信じてる」

確かにすぐに振っ切ってやるとは言ったけどさぁ、とタケルがため息をつくので俺は思わず苦笑い。

なるほど。
やっぱりまだ振っ切れてなかったのか。

「十年来の片思いを、一ヶ月かそこらで忘れてたまるかよ…」

タケルは俺のコーヒーを奪って飲み干した。
< 190 / 258 >

この作品をシェア

pagetop