恋する手のひら
え…?

突然のことに、頭がついていかない。
なのに、こっちの慌てようとは対照的に、秀平は普段通りの顔をして、再び雑誌をめくり始めている。

ちょっと待って。
今、キスしたよね?

唇の感触を再確認した瞬間、私は真っ赤になって後ずさる。

えええええ~??!!

こんなに驚くのには訳がある。
(いや、もちろん、訳なんかなくても突然キスされたら驚くけど。)

だって私は高校に入ってからずっと、秀平に片思いしてたんだもん。

願望が産み出した妄想…じゃないよね?
私は秀平の横顔を恐る恐る覗き込む。

彼はそんな私の熱視線に気付いてるのか気付いてないのか、雑誌から視線を上げない。

そんなとき、

「よっしゃー!
新記録!!」

私たちの目の前でタケルが勢い良くガッツポーズを繰り出したもんだから、びっくりして体が飛び上がってしまった。

タケルは、すごいだろ、と勢いよく振り返ったかと思うと、私の顔を見て眉を寄せた。

「あれ?
実果、顔すげー赤いけど、風邪でもひいた?」

そうタケルが私のおでこに触れようとしたとき、秀平は雑誌を閉じて立ち上がった。

「そろそろ帰る」

タケルはその手を引っ込めて、秀平に向き直る。

「何だよ。
もっとゆっくりしてけばいいのに」

そんなふうに残念がるタケルの声を聞きつつ、私は秀平の後を追った。
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