恋する手のひら
「…実はこの間、告られたけどね」

タケルの言葉に、私はやっぱりと息を飲む。

「そっか…」

そう言うしかない。

私とタケルはもう恋人じゃない。
彼が久美子とどうなろうと、私には口出しする権利はない。

「断る理由もないし、あいつがいい奴なのは分かってるし、返事は保留にしてあるけど…」

断る理由がないって、私のことを指してるんだよね。

『実果しか好きじゃないから』っていうのがタケルの決まり文句だって聞いたことがある。
私が秀平と付き合い出した今、もうそのセリフには振り言葉としての効力はないはずだ。

「実果は…」

急にタケルに真剣な目で見つめられた。

「俺が久美子と付き合った方が嬉しい?」

そう聞いたタケルの顔が悲しそうで、すごくせつない。

そんなわけない。
タケルはやっぱり大事だし。
未練がないと言えば嘘になるくらい、大好き。

だけど、あんなふうにタケルを傷付けて秀平を選んだ私がそんなこと言えるはずない。

「───なんて。
今の嘘」

返答に困っていた私より先に、タケルがぺろっと舌を出した。
< 239 / 258 >

この作品をシェア

pagetop