恋する手のひら
「この間まで秀平くんの一番近くにいたのは実果だったのにね」

沙耶がよしよし、と私の頭を撫でて慰めてくれる。

気持ちが顔に出やすい私の片思いは、ほとんど周知の事実。

気付いてなかったのか、気付いてて無視してたのか。
それに触れなかったのは秀平くらいのものだった。

「でも、こればっかりは仕方ないから」

私は出来る限りの笑顔を作って言う。

「健気だなー。
いざとなったらタケルで我慢しときな」

久美子と沙耶はそう言って去って言った。

「いざとなったらって…。
あいつら相変わらずヒドイ扱いするな」

タケルはB定食のアジフライを頬張りながら口を尖らせる。

タケルは黙ってればモテそうなのに、お調子者の性格のせいか中学時代からいつもこんな役回り。

「俺ってかわいそ」

そんなタケルのおどけた様子を見て、彼が私の気を紛らわそうとしてくれるのが分かった。

だけど、どうしてもさっきの久美子たちの言葉が頭から離れない。

もし、このまま希美ちゃんが秀平の一番側にいて。
もし、記憶を取り戻したときに彼女のことをまた好きになってしまったら。

私がしてきたことは一体何だったのだろう。

記憶をなくして困ってる秀平に、さらに負担を掛けたくないからって、恋人になったことも好きな気持ちも黙ってるなんてバカみたいだ。
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