恋する手のひら
…!

突然の出来事に、心臓が止まるかと思った。

今、キスしたよね?
ほんの一瞬だったけれど、唇の感触は確かに残ってる。
秀平を見つめながら、彼が何か言うのを待っていると、

「ま、いっか」

秀平はそうつぶやいて、タケルに視線を移した。

「───で、タケル、何?」

「来月の練習試合のことなんだけどさ…」

タケルの場所からは見えなかったのか、今のキスなんて知るよしもなく、秀平と部活の話を始める。

私の頭越しに会話を交わす二人に挟まれながら、私の思考は爆発寸前だ。

事故みたいなものとはいえ、秀平とキスして冷静でなんかいられない。

『ま、いっか』
そう言われたけど、私はどう受け取ればいいの?

二人の会話なんか頭に入ってこない。
ほてった頬を手で覆いながら、さっきのキスが頭から離れない。

「実ー果。
実果ってば」

タケルに肩を叩かれて我に返ったときには、もう降りる駅に着いていた。
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