恋する手のひら
秀平の家の最寄り駅は本当は私たち駅の一つ先だけど、位置的に二つの駅の真ん中あたりにあるから、3人で帰るときは同じ駅を利用している。

「ボーっとしすぎだろ」

呆れたように言って先に電車を降りる秀平。
全く、誰のせいだと思ってるのよ。
私は内心で悪態をつきながら、慌てて二人の後を追った。

駅から一番先に通りかかるのはタケルの家。
前は寄り道して遊んでいくことが多かったけど、最近は秀平が部活を休んでいたこともあって、その機会は減っていた。

「寄ってく?」

タケルはそんなブランクを感じさせないくらい自然に聞いてきたけど、私は首を振る。

さっきのキスで頭の中が混乱していて、正直そんな余裕がない。

「そっか。
じゃあ、またな」

タケルと別れると、秀平と二人っきりになってしまう。

私の家はタケルの家からそう遠くないのに、二人で歩くその距離はやけに長く感じる。

さっきのキスをどう思ってるの?
横目でそっと秀平の顔を見たとき、彼も同じことを考えていたのか目が合う。

「───さっき…」

いきなり核心を突こうとする秀平に、私は慌ててその言葉を遮った。

「ノーカウントにしよう」

まだ秀平は言い終わってなかったのに、私は早口でまくし立てる。

「あ、あんなの事故みたいなもんだし。
唇が触れたっていうか。
それもどうだか怪しいくらいだし」

秀平は驚いた様子で私を見てる。

「なかったことにしよう。
それがいいよ」

そして少しの沈黙の後、秀平は大きく溜め息をつくと、分かった、とつぶやいた。
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