恋する手のひら
それ以上何も言わない秀平に、ホッとしたような、少し残念なような、はっきりしない気分になる。

だけど、これでいいんだ。
秀平だって事故でキスしたなんて、困ってるに決まってるし。
それ以前に、あんなのキスのうちに入らないかもしれない。

「───それ…」

不意に、秀平がぽつりとつぶやく。
透き通った切れ長の目が私を見つめていた。

「前から付けてたっけ」

秀平の視線が、私の首筋に向けられていたことに気付いた。

「これ…?」

ネックレスのチェーンを持ち上げると、秀平は小さく頷く。

制服のブラウスに隠れてほとんど見えないくらいだったのによく気付いたな、と思ったけれど。
私はアクセサリーなんてほとんど身に付けないから、逆に目立ってたのかもしれない。

「───実は、ずっと貰いそびれてた誕生日プレゼント、やっと今日受け取ったんだけど…」

記憶を取り戻すきっかけにでもなってくれないかと、さりげなくハート型のトップを見せたけど、秀平は無表情のまま。

やっぱり思い出すわけないか。
私はまた落ち込みそうになる気持ちを振り払うように、そっとネックレスをブラウスの中に戻した。
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