恋する手のひら
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「さっき、大塚さんと何話してたの?」

帰り道、タケルの家まであともう少しのところで、その話題になった。

「秀平に近寄るな、とか言われた?」

タケルが冗談ぽく言う。

「まさか。
───でも、そういう子の方がよっぽど良かったかも…」

実際に話してみると、希美ちゃんはすごく素直ないい子だった。
そしてそれは、羨ましいくらいにキラキラ輝いて見えた。

「秀平が思い出すまでの辛抱だよ」

タケルが私の頭にポンと手を載せる。

「他の誰を忘れても、あいつが実果のこと忘れるわけない」

タケルが優しい言葉をかけてくれるから、今まで何とか心のバランスを保っていられたけど、それももう限界かも。

日に日に、心の中にじっとりとした闇が広がっていくのが分かる。

「そうかな…」

私が立ち止まったのに気付いてタケルも足を止めた。

「本当に思い出すのかな…」

退院するとき、主治医はそのうちに記憶は戻ると言った。

なのに。
意識を取り戻してからもう一ヶ月が経つのに、全然そんな気配ないじゃん。
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