恋する手のひら
「お前が信じなくてどうすんだよ」

強まる語調にタケルが怒ったのは分かったけれど、いい加減に私も疲れてしまった。

秀平はいつまでたっても私のことを思い出さないし、とうとう希美ちゃんと寄りも戻してしまった。

たとえ今記憶が戻ったとしても、私の元に戻ってきてくれる確証だってない。

それに。
そもそも、秀平に好きだと言われたわけでも、付き合おうと言われたわけでもないんだから。

「もう、待つのは嫌…」

今まで堪えていた本音がポロリと口からこぼれ落ちた。

「今の秀平は、私の好きな秀平じゃない」

だから、希美ちゃんと寄りを戻したって仕方ない。
私はまるでそう自分に言い聞かせるようにつぶやく。

こんなことを言えば、タケルをもっと怒らせるのは分かったけど、私の口は止まらなかった。

「───分かった。
もう、秀平のことはいいんだな」

タケルは私を責めなかった。
だけど真剣な顔で、確かめるように聞いた。

「もうあいつのことは諦めるんだな」

「───私の好きだった秀平はもういないよ…」

タケルはきっと呆れてる。
あれだけ秀平を好きだと言っておいて、こんなにあっさりもういいと言える私に。
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