恋する手のひら
そのとき、希美ちゃんが何かをねだるように秀平のワイシャツを引っ張った。

そっと目を閉じる彼女に、秀平はゆっくりと体を寄せる。

見ちゃダメだ…。
心の中で警報が鳴ってるのに、体が言うことを聞かない。
まるで壊れた人形のように、目を閉じることもできず、その場に立ち尽くす。

秀平は希美ちゃんの柔らかい髪を耳にかけながら、そっと彼女に口づけた。

そのキスは、まるで映画の一場面のようで。
秀平がゆっくりと唇を離すと、希美ちゃんは頬を赤く染めて微笑んだ。


足元から崩れていくような錯覚に襲われて思い知る。
ちっとも秀平を諦めてなかったことに。
こんなにもまだ彼を好きな自分に。

『私の好きだった秀平はもういない』

タケルに言った言葉はただの強がりだ。

希美ちゃんに秀平を取られたのを合理化したかっただけ。
負けを認めたくなかっただけ。


私は言うことを聞かない足を無理矢理動かして駆け出す。

向かう場所なんて、一つしかない。
いつも側で見守ってくれる人なんて、一人しかいない…。

昇降口で、下駄箱にもたれかかるように立っていたタケルを目にした途端、堪えていた涙が一気に溢れ出した。
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