恋する手のひら
何か変だ。
胸のあたりはざわついてるのに、不思議と嫌な気分じゃない。

実果の目が俺を見る。
俺の心を見透かすような視線に、緊張した。

改めて実果の顔をまじまじと見る。
整ってはいるけれど、年齢より少し幼い顔。

次第に高鳴っていく心臓に、俺は記憶を失う前、実果のことを結構気に入ってたんじゃないかと思った。

そのとき。

「実果!」

後ろから声がしたと同時に、実果はビクッと体を強張らせた。

振り返った先には、顧問と話を終えて戻って来たタケルが立っていた。

タケルは俺たちを…、いや俺を、鋭い目つきで睨んでいるようだった。

タケルを見た瞬間、実果は俺の手を離して彼に駆け寄る。

彼女の温もりを突然失った瞬間、俺は言いようのない喪失感に襲われた。

俺は振り払われた自分の手を呆然と見つめる。

俺でなく、彼氏であるタケルの元へ向かう。
そんな当たり前の選択に、ショックを受けている自分に気付いた。
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