恋する手のひら
「何やってんだ、あいつら」

タケルがつぶやく。

話の内容までは聞こえないけど、希美ちゃんが見たことないくらいの剣幕で怒ってるのは遠目にも分かった。

次の瞬間、彼女は立ち上がって秀平の頬を叩いた。
その音が響いて、一瞬学食が静まり返る。

希美ちゃんはそのまま秀平を残して去ってしまった。

残された秀平だけが周りの好奇の目にさらされて、かなり気の毒。
タケルもそう思ったのか、迷わず秀平の向い側の席に腰を下ろして声をかけた。

「派手にやられたな」

秀平はタケルの顔を見ると、少しホッとしたように苦笑した。

タケルが秀平のテーブルに座ったら、私だけ違うとこには行けない。
少し気まずいけど、私もタケルの隣に腰を下ろした。

斜め前に座る秀平をちらりと盗み見ると、バスケを再開したせいか少し体が引き締まったように見える。

希美ちゃんがよっぽど強く叩いたのか、彼の頬ははっきり分かるほど赤く腫れていた。

どうして叩かれたのか知りたいけどさすがに聞けないな、なんて思ってると、

「で、何やらかしたの？」

タケルってば、相変わらず思ったことをすぐ口にするんだから。
< 94 / 258 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop