春待つ花のように
 久々にこの店に来れたと思っても、国王一派から逃れてきただけのこと。安心して酒を飲める気分でもなかった。

「全く、迷惑を持ち込むのが好きだね、あんたって男は」

 化粧をおとして寝巻き姿のイブが階段から降りながら、カインに声をかけてくる。彼は顔を上げると、ランプを持っている彼女のことを確認するだけで、すぐに視線を逸らしてしまった。

「ローラからあんた達の素性のことは聞いたよ。これからどうするのさ」

 カインが座っているのとは逆になる端の椅子に座るイブ。何だか、近寄れないオーラが彼から出ていて、距離をあけて座ることにした。

「前に進みますよ」

「前に…ね」

 イブは静かに繰り返す。詳しく言わなくても、彼女にはもう理解しているのだろう。これから彼らがやろうとしていることを。

「今夜は2階を使いな」

 イブの言葉に、カインはテーブルを見つめたまま微笑む。彼女なりの優しさを感じた。

 彼は立ち上がると、階段に向かう。

「ありがとうございます」
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